今朝寝坊してしまって、朝刊も、テレビのニュースも見てこなかったのがまずかった。 いや、家を出るとき、こうなるような気はしていたんだ。 空気は湿っぽかったり、厚い雲が東から流れてきていた。 くそ、何を根拠に「大丈夫だ」なんて思ったんだ。 この大雨のどこが大丈夫なんだろう。 忌々しく空を見上げると、灰色の空から落ちてきた水滴が俺の顔をたたく。 早くしないと下着までびちょびちょになってしまう。 周りを見渡すと、いきなり降り出した大雨に驚き、あわてて傘を差す人、 げっと言いながら、自転車のスピードを上げる学生、 かばんを頭の上に掲げて、走り始める会社員、 そしてパン屋の店先で雨宿りをする少女が目に入った。 俺は小走りでそのパン屋のほうへと向かった。 パン屋の大きな一枚ガラスの前で、スーツをはたいて水滴を落とす。 隣の少女は、降りしきる雨を見ているのか、 それとも通りを行きかう人々を見ているのか、 ずっと正面を向いて立っている。 俺は厚い雲を見上げた。 「まったく・・・いきなりだったね」 少女のほうをちらりと見たが、何の反応も示さない。 今度は少女のほうを向いて言った。 「まあ、まったくの予想外、ってわけでもなかったんだけどね、あんたは?」 彼女はまさか話しかけられるとは思ってなかったのか、 ひどく驚いた様子でまじまじと俺の顔を見ている。 「そんなに驚くことはないだろ」 そういって苦笑する。 「・・・私にはまったくの予想外でした。今でも信じられないくらい」 なんというか・・・少々大げさなお嬢ちゃんのようだ。 「当分ここで待つことになりそうだ」 彼女は天を仰ぐ。 雨は一向にやみそうにない。 「そうですね・・・結構待っているのですけど」 けっこう?少し違和感を感じながらも、 先ほどの彼女の大げさ振りから察するに、普通かな、と納得した。 しばらく無言が続き、雨の音だけを聞いていた。 「あら・・・ではお先に失礼させていただきますね」 おいおい・・・まだ雨はぜんぜん弱ってないぜ、 と言おうとした瞬間、 彼女の目の前に黒い服を着て、大きな釜を持った少年・・・死神がたっていた。 「お迎えにあがりました」 死神の言葉に、少女はこくりとうなずいた。